AWARD
卒業設計賞

2013.5.10

第10回 団地再生卒業設計賞 入選作

第10回団地再生卒業設計賞についてたくさんのご応募をいただきました。
2013年5月10日に審査会が行われ授賞作品が4点となりました。
入選された方々の作品をご覧いただけます。

<団地再生卒業設計賞 内田賞>

長谷川 駿   早稲田大学
森田 龍平   早稲田大学
新井 有紀子  早稲田大学

「サーカスがつむぐ小さな日常 -医療と居住を結ぶ生活基盤の再編-」

これまで団地再生というと、既存ストックを生かしつつ時代が要請する機能を付加・充足するという建物自体のリノベーションあるいはコンバージョンのイメージが強かった。ここではそこに重点を置くのではなく、人口構成が変化し、高齢化する近未来のコミュニティに不可欠な予防医療サービスを付加することで、団地の価値を上げようとする試みだ。その特徴は、固定的な施設にあるのではなく、サーカスのように移動しながらサービスを提供する機動的なネットワークにある。一種の巡回移動医療施設であるが、組み立て・解体・移動の建築システムがよく考えられている。対象とした戸山団地に限らず、かっての大型住宅団地には広い豊かな外部空間がある場合が少なくない。また、不要となる駐車場も増えるだろう。そのような外部空間を生かして団地を地域ぐるみで再生する視点もユニークだ。(小玉祐一郎)

既存の団地に、予防医療サービスを提供するモビリティと、モビリティとドッキングして利用できるような小さな庇状の空間の増築が計画されている。非常にささやかなアイデアであるが、そうであるが故にリアリティの大変高い提案となっている。団地の物理的改変に興味を奪われることなく、団地に必要とされるものを真摯に考えた点を大いに評価したい。(乾久美子)

総じてストック活用型の案が多い中でも、本案は、高齢者住民が多く今後もさらに増加が目される状況のなかで、住宅機能に特化している団地の課題を、移動と仮設によって補完し、住民(地域住民も合流すればもっと良い)が住戸住棟からはみ出て、結果的に団地の風景を変えようという優れた提案である。これだけでも面白いが、さらに進化し、仮設が一部常設化して、団地の空間をアドホックに変えていき、将来の、居住者と地域の協働による集住環境づくりにまで転換させることを予感させる。現状のいわゆる団地的外構の再編が必要なところが空間的提案でもあり、サーカスを超えて(常態的)仮設市場的なコラージュの風景も思い描けて、大いに評価したい。(江川直樹)

<団地再生卒業設計賞>

隅谷 拓也  大阪工業大学
「ノイズと共に生きていく」

団地は、標準の繰り返しが平坦で均質な風景を創りだし、加えて生活の滲み出しを制限してきた。環境ストックといっても、大きく育った樹木以外のよりどころが少なく、建築が創り出す空間的場所性に欠ける。そこに、放置された過去の歴史(ノイズ)や標準からはずれた自然的条件に着目し、新たな場所性を創りだそうという提案は良い。標準的につくられた増築スペースも同様であり、その共用空間化も一定の範囲で頷ける。しかし、そのアイデアだけで空間を(生活と関係させて)解決できるかと言えばそれは難しい。住民参加をうまく活用して空間の再編にまで持っていくには空間の総体に対する理解と能力のある専門家の参加が不可欠であるように、提案者にはそういったレベルにまで育ってほしいと期待して、優秀賞に推薦した。(江川直樹)

辻尾 緑  大阪工業大学
「萌芽の景」

団地を児童養護施設へと転用するという意欲的な提案。児童養護施設計画と団地再生というとどちらも社会的に重い課題を抱えた対象なので、本提案をどちらの軸で評価すべきかを迷う。本提案の作者は団地を「どう使ってもよさそうなストラクチャー」ととらえ、その自由さが児童養護施設にとって相応しいと感じたのだろう。その感覚を評価する声がある一方で、もう一方の軸である団地再生という点においては、団地再生の第一線に立つ委員からスケールアウトしている点を疑問視する声もあった。(乾久美子)

<団地再生卒業設計賞 奨励賞>

鈴木 智也  名城大学
「シュリンキング・ニュータウン -セルオートマトンを用いた戸建住宅地更新計画-」

人口減少が続くとやがて、住宅団地に空きが出てくる。進行によっては団地自体の衰退が危惧される。この縮退の現象を逆手に取って、ポジティブな活用を意図した高蔵寺NTの戸建住宅地更新プロセスの提案である。空地を農地に転用し、ゆっくりしたスローライフが楽しめる団地への転化が最終目標だが、この提案のユニークなところは、そのプロセスに自己複製型のアルゴリズムを導入したところだ。どこにいつ空地が発生するのかだれにも予測できないが、そこで自動調整が可能なアルゴリズムが働き、バランスよく空地が配置されるように導入するというわけだ。アリゴリズムには、用途の規定だけではなく、改築や建て替えのルールもある。ルールとして決めたわけだから利害関係者が反対する余地はない。着実に目標に近づくためのユニークな実験的試みだ。(小玉祐一郎)

概評 内田 祥哉

今回は前回とは打って変わって、多数の応募を得、活気のある審査風景が展開された。応募内容にも充実したものが多く、社会の現実を踏まえたものが多かった。また今回は審査員全員一致の最高点が決まり、これが内田賞となった。
最高点を得た案は、将来の団地高齢化を見据え、これから不足すると思われるインフラを、サーカスのようなスタイルで補足しようというものである。作者は、そのスタイルを幾つか提案しているが、もともと施設が固定されないサーカススタイルだから、その展開は限りなく広げられるし、次々と新しいものをつぎ込めれば、常に時代の先端を維持することも可能であろう。又これらを一定の期間毎に、別の団地に巡回移動させることを考えれば、多くの団地、特に辺鄙で小規模な団地まで、蘇生させることが出来るかもしれない。筆者は嘗て学校不足の時代に、トレーラー型の近代教室を循環させる提案をしたことがあるが、これは将来の医療補足を先端医療によって把捉できる優れた提案であると考えている。団地再生に対する新鮮な提案として総ての審査員から評価された。
今回は、全体として充実した提案が多く、団地再生事業が、社会に根付き専門教育にまで普及して来たことが認められた。