AWARD
卒業設計賞

2017.5

第14回 集合住宅再生・団地再生・地域再生学生設計賞 入選作

2017年5月に審査会が行われ授賞作品が4点決まりました。
入選された方の作品をご覧いただけます。

【選考委員】内田 祥哉(東京大学 名誉教授)審査委員長
 松村 秀一(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授)
 鈴木 雅之(千葉大学コミュニティ・イノベーションオフィス 准教授 /ちば地域再生リサーチ)
 田島 則行(千葉工業大学工学部建築都市環境学科 助教/テレデザイン)
 宮部 浩幸(近畿大学建築学部建築学科 准教授/SPEAC)
 森田 芳朗(東京工芸大学工学部建築学科 准教授)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 内田賞】

高橋杏奈 田口奈津子   工学院大学 大学院
「坂出人工土地 再生計画」

この提案は、メタボリスト大高正人によるモダニズム建築の名作であり、かつエポックメイキングとなった集合住宅でもある「坂出人工土地」の再生である。坂出人工土地は、1968年から4期に分けて完成し、「人工地盤」の上に市営住宅や広場、下に市民ホールと商店街、駐車場を配して市街地を再開発したものであり、築後50年を経過した。
 このような名作に対して、提案者は、自身が当時の設計者である大高の設計思想をくみ取りつつ、今の時代のニーズを反映させるとどのような空間構成や生活の風景、まちの風景になるかという視点をもって再構成させようとする着想と意欲的な提案が高く評価された。
 特に、大高の「利用する人によって使われ方が決まる<成長の余地>」という設計思想を受け継ぎ、それを外部空間、地盤の下部、住宅の内部空間にもまで拡張して新しい空間構成をつくりだそうとすることが特徴的である。そして「人工地盤」という特性を活かして、当時にはなかった多様な空間像や生活スタイルを提案することに成功している。(鈴木雅之)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞】

山元隆志   明治大学
「ある街への巣喰い-家族を解かれた戸建住宅-」

空き家問題を、単なる建築の問題として片付けるのではなく、20世紀を形づくってきた「家族」の解体として捉え直すことで、その戸建住宅の位置づけをも再定義しようという提案である。
 近代都市を構成する上では前提となっていたのが「近代家族」であるとして、個人と社会が結びつく接点として「家族」という最小限の単位があり、そこから近代の都市や住宅街は構成されてきたという見立てである。
 その最小単位が解体されるなかで、個室としての「ヘヤ」、ユーティリティ施設としての「フロ」、そして共有ファシリティとしての「イエ」に再構成し直し、戸建住宅を一つの完結したユニットとしては見なさずに、住宅と住宅をまたがって、「ヘヤ」や「フロ」や「イエ」が再配置され、家族単位を超えたコミュニティの再編による余剰床の再配分を試みている。
 意欲的な挑戦であると同時に、今起こりつつあることを社会学的にも解き明かしており、「家族」の解体という考察にもとづいて空き家問題を捉え直そうとしている点において、すでに起こりつつある未来を予言しているように思う。
 一方、出来上がったプランはすこし現実的すぎて、凡庸な間取りに終わっている点が非常に惜しい。戸建住宅という近代の間取り、その枠組みをも解体するところまで行ければ良かったのだが、それは今後の期待としたい。 (田島則行)

森孝太 井上愛 岡村健徒 小野夏香   静岡文化芸術大学
「一室から考える新たなまちの暮らし方 ~ワークショップ形式のリノベーション実施コンペ実現案より~」

集合住宅の住戸をふたつ、実際にリノベーションした秀作である。建築家や管理会社、教員などの熱心なサポートがあったとはいえ、これだけユニークで質の高い提案を実施設計までまとめ上げた力を高く評価した。
物件は、静岡県浜松市に立つ、築34年の民間賃貸集合住宅である。ワークショップ形式のコンペが開かれ、選出された2案が実現した。空間のレイアウトはそれぞれ異なるが、両者に共通するのは、住戸内部で完結する改修でありながら、外部とのつながりをつくり出そうとするアプローチである。そのために、内部に引き込まれた外部(=土間空間)が設けられている。
 後、これらの住まいが実際にどう使われていくか、調査していく予定だそうである。設計者の期待に応える、またいい意味で期待を裏切るどのような使い方が見られるか、またそれが外部とのつながりにどう結びつくか、楽しみである。
最後に、もうひとつ印象に残ったのが、住宅ストックの価値向上と学生の創作・学びの場の結びつきが、公的集合住宅の分野以外で生まれていることである。これは講評の枠の外の話かもしれないが、そうした場を用意されたオーナーの方にも敬意を評したい。
(森田芳朗)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 国際賞】

成 潜魏   東京大学 大学院
「中国重慶市の城中村における都市間対立緩和、段階的設計、インフォーマル地区の再生開発戦略」

中国各地には市街地開発の間に取り残された「城中村」とよばれるエリアがある。混沌としたエリアは不衛生な住環境や貧困など様々な問題を抱えている。一方で歴史があり、生活感のある路地空間がある種の魅力でもある。
この提案は重慶の城中村の再生に取り組んでいる。スラムクリアランスのような大きな面の再開発ではなく、細い線状の開発で既存の路地空間や古い建築を継承しながら環境を改善していく提案が目を引いた。

建て替えを行うところでは既存の町並みの配置を継承する形で丈夫な壁を設置し、共同住宅、ワークスペースや市民センターなどが設けられる。インフォーマルマーケットのスペースでは地区独特の小さな経済の継承を図り、さらにはスキルトレーニングセンターで住民たちが自主施工で建築を作る動きを支援している。ある段階までを用意して、その後は住民たちの力によって街を整えていくように促す仕掛けである。全てを作りきらず、住民の手によって完成させていく新しいタイプ(チリでアラヴェナ達が推進したものと類似)のソーシャスハウジングとして興味深かった。ここでの建築家の役割をデザイナーとしてではなく住民達がまちを作っていくときの触媒のようなものとして位置付けている点も示唆に富む。この初期設定ともいうべき線的開発の主体は公共と予想されるのだが、欲を言えば、その点まで深掘りされているとさらに真に迫った提案となったと思われる。 (宮部浩幸)