2016.5
2016年5月に審査会が行われ授賞作品が4点決まりました。
入選された方の作品をご覧いただけます。
【選考委員】内田 祥哉(東京大学 名誉教授)審査委員長
松村 秀一(東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授)
鈴木 雅之(千葉大学コミュニティ・イノベーションオフィス 准教授 /ちば地域再生リサーチ)
田島 則行(千葉工業大学工学部建築都市環境学科 助教/テレデザイン)
宮部 浩幸(近畿大学建築学部建築学科 准教授/SPEAC)
森田 芳朗(東京工芸大学工学部建築学科 准教授)
吉田沙耶香 椙山女学園大学
「神島、生業の小景が結う島」
島で行われる祭りや行事を通して島から出て行った人々と島の関係を結びなおそうという提案。就学のために高校生になるとほとんどの人が島から出て行くという宿命のなかで、どのように島の集落を維持、再生させるのかを考えている。島の集落や自然を丁寧なフィールドワークによって調査し、島の小景と寄り添うように提案のストーリーと空間を導いている点に良い評価が集まった。
空家活用による滞在施設は集落の路地や傾斜地ならではの風景をうまく生かした提案。祝祭の場は小中学校と集落をつなぐ中間点にある休耕地に設けられている。島の祭りや行事をよく調べて空間を用意している。
それぞれに魅力ある提案であるが、さらに望むならば、これらの空間に島で暮らしている人々の日常や生業が流れ込み、行事以外の時も島での暮らしを楽しく豊かにする空間的な工夫や使い方にまで踏み込んで欲しかった。高校生になって島から出て行った人たちが島に戻りたくなる生業と風景へと、この調査と提案をつなげて欲しい。(宮部浩幸)
山田 慎 東洋大学
「デジャヴとジャメヴの箱-千葉県船橋市若松団地の可能性-」
団地の生み出す環境を、既視感や未知感の組み合わさったなかで生まれる日常のあり方から読み込んだ意欲作である。船橋市のIKEAやららぽーと、競馬場や干潟といった、極めて異なったものが集まった特殊な環境にある若松2丁目団地。この非凡な環境に立つ団地を選んだ時点で、すでに団地にまつわる日常の既視/未知の意図的な混同が始まっている。
単純なボリューム操作による異化の手続きを行ないながら、そこに入りうる様々な都市的機能を執拗にスタディする。さらには、団地の中で起こりうる家族や住人たちの日常の出来事を、これでもか、これでもかとバリエーションを検証しつづける。
プロセスの組立てが意欲的でありロジカルであることは間違いない。しかし、その意欲に似合った成果が出ているかについては、あえて疑問を投げかけておこう。団地が、まだ「団地」という凡庸な建物のままであるように見えるからである。しかし、その凡庸さこそが既視/未知感を生み出すのだという作者の意図であったとするならば、それは深読みしすぎだろうか。いずれにせよ、そのチャレンジを評価したいと思う。(田島則行)
名城大学 柳沢研究室 学生一同 名城大学
「下本町タマリウム」
この提案は、昭和40年代初頭、愛知県犬山に防火帯づくりと商店街の近代化を目的に建てられた防災ビルのリノベーションである。再生の対象はさまざまあるが、今回、まちなかの”防災ビル”を対象とした提案であることが高く評価された。まちなかでの古い建物が多くなっている中で、大規模な再開発ではなく、古い建物を再生することで町の活性化にも取り組もうという意欲が感じられた。
再生の方法は、横方向、縦方向に空間をつなげ合わせたりして、そこに子供、旅行、食事、習い事、創造、生活、図書などの7つのジャンルで「たまり」の空間をつくり出していることが特徴的で、まちなかで多世代を対象とし、時間軸を意識しようとする着想も良い。
今回の提案は2棟の隣接する防災ビルの再生であったが、犬山のまちは全体として疲弊しているので、この再生が今後どのようにまち全体に波及するのか、今後のまちの再生がどのように加速化されるのかが分かるような提案も期待したい。(鈴木 雅之)
田中俊平 東京造形大学
「地元を愛する団地再生」-住居・商業複合施設-
DIYやカスタマイズなど、利用者自身による空間づくりの力とそれをサポートする各種サービスが充実した今日、デザインという仕事にはどのような可能性ややりがいが残されているか。この問いに、田中さんは、(不動産業を営まれているお父様の助けを得ながら)中古マンションを実際に購入し、手を加え、転売するプロジェクトをやり遂げることで答えようとした。その前向きな実行力を、奨励賞に相応しいものとして評価した。後半の境川団地の再生計画は、このプロジェクトとは無関係な空想に終わってしまっており(敷地も異なるようである)、今後に期待したい。エリアの分析・計画から始めてプロジェクトを実施する逆の構成だったらどうなっただろう。(森田芳朗)
第13回団地再生卒業設計賞 概評 内田祥哉
今回は27人のエントリーで15作品の応募案があり、例年にならい4作品が入選した。
13回と回を重ねたことで、応募案もさすがに密度をたかめており、嘗てのような抽象的な一般論ではなく、細部に立ち入り、地域の事情を調査した上での具体的提案が増えているようだ。
今回の入選案は、何れも、人口減少、高齢化する地域の事情に密着した調査を踏まえたものが多く、これまでになく計画密度の厚みを感じさせた。
今回選ばれた提案は、団地再生の手法を地域再生に拡大利用しようと言うものであるが、このような傾向は、今後も拡散するのでは無いだろうか。何れにせよ、内容が、より具体的に、実態と結びつこうとしていることが、注目すべきであろう。