2015.5.25
第12回団地再生卒業設計賞について たくさんのご応募をいただきました。
2015年5月に審査会が行われ授賞作品が3点となりました。
入選された方の作品をご覧いただけます。
須田 彩子 大阪工業大学
「Science College Town~理系学生のための学衣食住」
再生対象の集合住宅は昭和28年(1953)建設の4階建RC造9棟よりなる老朽団地である。公営住宅法が施行されて間もない戦後復興期の希少な現存例である。後世に画一性が批判される南面平行配置ではあるが、蛇行しながら上り坂となる中央通路の左右の住棟がハの字に僅かに向かい合う配置は囲み感を巧みに醸し出している。住宅団地をカレッジタウンへ改造するという思い切った提案ながら、既存の配置計画を素朴に踏襲する姿勢に作者のこの場所への愛情を感じる。9棟ある既存住棟の内の5棟を新規に建替える計画だが、角度を変えながら上るアプローチの「目線に止まりやすい位置に新築を」という着想が良い。高さも建物幅も既存住棟に揃えて計画される新築棟は、多様な階高を持つ3階建てとして計画されている。開口部も大小取り混ぜた楽しい「学び」の空間となっていて、「衣食住」の空間であるリノベ棟の、既存のまま衣を替えた外観との対比が面白い。構造や住戸構成に大胆に手を入れた諸提案の中で、既存団地の記憶を丁寧に拾い起こす姿勢が高評価を招いた。(近角真一)
山本 晃大 東京工業大学 大学院
「移動する食卓」
農と食に関わるアクティヴィティを持ち込むことで、多摩ニュータウンのある地域を新しい生活の場に仕立てていこうという提案です。移動屋台、空き店舗の利用、新たに設立される農地管理NPO法人の交流拠点、住棟間空地の農地転用等の空間設計を効果的に組合せ、地域の大学や農協との連携も念頭に、高い実現可能性を感じさせるまとまりの良い提案となっている点が特に評価されました。
今日少しづつ目立ち始めている農山村への移住と、そこでの新しいライフスタイル実践の広がり。それらの社会現象が示しているように、今、人々の暮らしと農・食の関係には、高度経済成長期以降の希薄で疎遠な関係とは異なる、身近で親密なものが求められ始めているように思えます。そんな中にあって、かつて農山村が立地したような地域に建つニュータウンを、新しい形の農と食の場に戻していこうとする発想には説得力があります。次の段階では、現在の住民との関係を考慮しながら、この提案をいかに段階的に実践していくかに知恵を絞ることが求められるでしょう。(松村秀一)
穴水 宏明 千葉大学
「転換する団地」
多くの丘陵地団地の造成は、ひな壇造成、つまり段地造成である。隣接する小学校の段地を解消し、建築的工夫も併せて団地となじませ、連続させようという空間再編の視点は良い。小学校と隣接する3棟の2戸一住棟に着目した視点も良い。その間に新しく道を挿入しようという提案も良い。団地の再編・再生には、団地特有の屋外空間の再編の視点が重要である。フェンスはいただけないが、3棟の2戸一住棟の、屋外空間を取り込んでの改修の視点も良さそうだ。プレゼの表現も悪くない。巨大団地の再編・再生には、最小のエネルギーによるインフラの再編と、住民(もしくは利用者)による愛着間溢れる住戸改修、コミュニティ再生の視点が重要で、その意味から、審査の過程では、小学校の改修の是非、必要性が話題になったが、上記の視点から評価した。団地を取り込んで、さらに多様な、新しい概念の教育環境としての小学校という大胆な展開が提案されていればさらに良かったのではと話題になったが、21歳の学生の提案としてはその真摯な姿勢に共感できる。(江川直樹)
第12回 概評 5月25日
今回は、応募数も増加し、団地再生に関する関心の高まりと、本企画に対する周知の広まりを感ずることが出来た。
入選3案は、いずれも老朽団地を減築し活性化を促す施設を付加しようとするもである。この種の提案では、既に医療キャラバンを持ち込む提案があり注目を集めたが、今回は、それ程の画期的提案はなかった。むしろ、今更という意見もあったが、誰もが思いつきそうな提案を、丁寧に表現したと言う点が審査員の目を引いた。その意味では、これまでに比べて密度の高いものが得られたと言える。
本賞も回を重ねて12回。漸く、設計密度の底上げが感じられるようになったが、実務の現場では限りなく微細な拘束が多いのが現実だから、若いエネルギーで、現状の拘束を突破するような痛快な提案も期待したいところである。