AWARD
学生設計賞

2024.6.19

第21回「集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞」

【作品紹介④奨励賞・講師講評/総評】

池田瑶葵 東京工業大学環境・社会理工学院

題名 具体的市場


(審査講評)
住むことに特化してつくられた郊外の団地。そこにどのような用途を加えていけるかは、豊かな暮らしの場としての団地を考えていく上で最も重要なテーマのひとつである。カフェ、食堂、ワークプレイスなどはイメージしやすいアイデアだが、巨大な卸売市場を持ってくるという提案には驚いた。その卸売市場の上部には、これまた巨大なトラス屋根が広がっている。何とも大胆な構想である。
郊外に開発されたベッドタウンは、モノを無自覚に消費するだけの空間となってしまった。その核である団地に卸売市場を移し、新しいモノの流れを生み出せば、郊外の暮らしの主体性は取り戻せるだろう。こうした作者の主張のなかでは、「コミュニティ」などの甘い響きの言葉は一切出てこない。むしろ「モノの流れをデザインし直す」というドライな操作でこそ、郊外の暮らしは変えられる。そうしたメッセージを強く感じる作品である。

森田芳朗 (東京工芸大学工学部工学科教授)


【総評】 松村秀一 団地再生支援協会 会長

今回の応募は15作品と昨年から少し増えたが、ここ数年の傾向とは異なり、殆どが住宅団地を対象とする提案で、しかも力作揃いであった。応募された学生の方々が所属する大学も、常連校よりはむしろ初めての大学が多く、これが団地再生に対する関心の拡がりの表れだとすると心強い限りである。
審査委員の間で評価の高かった最優秀作、優秀作、奨励作の4作品はどれも、建設当時とは大きく異なってきた人と人の関係や住居と混ざり合うべき人々の活動の場のあり方に対応して、実空間を改変する具体的な方法を提案したもので、それぞれに説得力のある優れたものだった。
最優秀作は、今から半世紀前、日本の団地建設の最盛期に企画されたことでも知られる芦屋浜高層住宅の独特な構法システムが本来持つ変更可能性を正しく認識しそれを効果的に活用した提案であり、これが実現できればもう半世紀は人々の豊かな暮らしの場であり続けるだろうと思わせるものであった。優秀作と奨励作の、現在の集合住宅に欠けがちな人間関係や内外関係を細やかに補う空間操作法の提案、様々な家族のあり方や暮らしのあり方に対応する戸建住宅地の空間操作法の提案、団地の足元に市場を持ち込むことで今までにない住まいのあり方を生み出そうとした提案の三つも、オリジナリティ、完成度ともに高く評価できる作品群だった。学生たちの頼もしい力を感じることができて想像以上に嬉しい審査会になった。