2022.7.16
退職後の人々が集う現在の団地では、一人ひとりの生活規模が縮まり、それに呼応するように住民の手に負えない空間が増加し続けている。そこで、長野市郊外の浅川・若槻団地を対象に、団地に等間隔に分布する生活共有の場である公園を舞台に住民のハナレを集積させ、住民が趣味を商品やサービスに変換できる場を団地一帯に展開する。さらに、工房機能を付加することで、住み手が自身のライフスケールにあわせて減築等を行った材を拠点に集積させ、趣味実践の場の空間構築ツールへと読み替えを行っていく。現在の団地に存在する手に負えない空間は、住民にとっては負の遺産だが、そのような材を読み替え、生活を彩るツールに変換する方法を提案することで愛情を注ぎ続けることのできる団地空間への展開を図る。住民の生活拠点が個と活動と空間を繋ぎあわせる大きな循環の中継点として立ち現れ、住宅の群で覆われた団地内に小さな経済圏が生まれていく。そんな姿が現代における集落再生の姿になると信じ、本設計を提案する。
【講評】
戸建住宅が立ち並ぶ郊外住宅団地を集落として再生しようという意欲的なプロジェクト。同一世代が住み込み一斉に高齢化していく現在の団地が抱えた問題を取り上げている。街区から建築詳細まで大小のスケールを見渡した丁寧な提案に目を見張るものがあった。
街区スケールでは持て余し気味な分散配置された公園のいくつかにみんなの離れとなる建築を設け、そこを近くの住民たちが使いながら作っていくというストーリーを提案。現在の団地に不足しがちな共助を提案している。建築の配置やプランニングのスケールでは住民たちの趣味が反映された機能提案と配置をおこない、詳細スケールでは各自が家から持ち寄った材料がアップサイクルされて造られる部分が丁寧に図面で提案されている。
さらに材料の持ち寄りとアップサイクルという設定は住民個々が愛着を抱く場所作りに有効な手段として評価できる。調査をまとめたスケッチ集がこの提案を深度のあるものにしていた。
最後に贅沢な要求をひとつしたい。今回の提案は現在の住民、つまり比較的高齢の人たちが主人公となっていた。彼らの作る風景が次の世代、つまり引っ越してくる人たち、帰ってくる子世代の暮らしの舞台となっていく提案を追加してほしい。そうすることで、この提案は団地を集落のように多世代が住み続ける場所へと成熟させる未来予想図になると思う。(宮部浩幸/近畿大学建築学部教授)
1. 設計主旨
人は生活していく中で日常的にごみを出す。ごみステーションに置かれたごみは、街の外れにあるごみ処理場で知らないうちに処理される。ごみを出す行為とその後の処分・リサイクルという行為が切り離されているため、一度ごみステーションに出したごみの行方について意識することはない。そこで、大阪と京都を結ぶ駅として、交通量の多い枚方駅前にごみステーションを配置し、ごみ捨てからごみが生まれ変わる一連の流れを体験できるようにすることで、ごみと環境に対する関心を高めることを目的とする。
2. ごみ活の説明
タイトルにもある「ごみ活」とは、体験型ごみステーションにおける体験の総称である。体験の内容としては以下の3つする。
・「ごみ活動」
ごみを持ち込み業者が担うごみ処理過程の一部を体験。
・「ごみ活用」
収集したごみを持ち込み、創作活動を行う。
・「ごみ活学」
ごみについての学びを発展させ、実践する。
3. 目的・予想される効果
ごみ活の目的と効果を以下に記す。
・ごみ活の体験がリサイクル活動を加速させる。
ごみ処理過程の一部を担うことでごみに関心と責任をもつようになる。自らの手でごみ活を行うことが、ごみ活の活動意欲向上につながり、リサイクル活動を加速させる。
・リサイクル効率の向上
ごみを丁寧に洗って並べ、状態の良いごみを出すことで、捨てたごみが元のごみとしてリサイクルされる水平リサイクル率の向上に貢献する。また、ごみを住民が細かく分別する手間が減り、リサイクル率の向上に繋がる。
・非常事態に強いまちづくり
枚方市には転勤や通学をきっかけに短期間居住する単身者が多いが、ごみ出しという日常動作を共有し、居合せることで顔なじみができる。孤立してしまいがちな単身者でも居合せることによるつながりは、非常事態にも強い関係となる。
・駅前歩行空間の創出
バス、タクシー、自動車のロータリーを分けることで駅前の混雑解消と歩行空間創出を実現する。
4. 敷地情報
敷地の基本情報を以下に記述する。
所在地:大阪府枚方市新町1丁目1-1府公社枚方団地
敷地面積:7287.87㎡
構造・構成:RC造、地上4階建て5棟120戸(元団地)
用途:集合団地
なお、団地は解体が決定しており、マンションに建て替えられる予定である。
5. プログラム
これまで業者が担ってきた細かいごみの分別を枚方市民が行うことで、リサイクルの効率化と、1人1人のごみ削減意識の向上を図る。加えて、リサイクルされたものを利用し、ワークショップや地域アーティストを通してごみをアートに変えるアップサイクルを行う。作品を通してローカルアーティストの活動をアピールする機会となる。
【講評】
この提案は、建替が決まっている団地住棟を活用して、ゴミ処理、リサイクル・リユース活動、創作活動・展示までの一連の活動を体験する施設にリノベーションするものである。
家庭ゴミの種類は多様で、粗大ごみ、プラスティックごみ、紙、缶などいわゆる分別が必要な種類のごみが洗い出され、それぞれのリサイクルパターンもシュミュレーショされて、それぞれが住棟の各部屋に配置されている。また合わせて研究、学習空間も配置され、そのプログラムの完成度と相対的な空間構成がうまくいっている。
まだまだ市民のごみや環境意識は低いままなので、こういう施設はあるといいと思う。さらにいうならば、ごみに関しては、リサイクル・リユースだけではなく、ごみを少なくするリデュースも必要で、それも含めての提案があるとよかった。遠い未来には、ゴミ問題も環境問題もなくなり、このような施設も必要ない社会が訪れることを望みたい。
最後にもう一つ感想であるが、これまでの本賞へのエントリーでは、団地の捉え方の多くはどちらかというとノスタルディックなものの見方であったと思う。今回、私はこの提案にある「ごみ」と「団地」は重なって見えていた。提案者は『団地って「ごみ」だよね!』と思っているのかどうかは分からないが、サスティナブルでなかった団地での提案に意図的なアイロニーがあったならば、私は満点をつけてもよかったかもしれない。(鈴木雅之/千葉大学国際教養学部 准教授、団地★未来シフト理事長)
本プロジェクトは、不動産業を営む方の提案により始動したプロジェクトである。「高齢者と外国人の新たな共助、共生」をテーマとした本プロジェクトは、身体は元気であるが単身で生活に不安をもつアクティブシニアと、日本で文化や言語の違いに不安を感じながら介護業として働く外国人が共に住まうことで共助の関係を築き、共生することを目標としている、日本の高齢化と出稼ぎ外国人の増加による社会問題の解決に向けた先進的なプロジェクトである。対象となったのは老朽化し、空き家となった築58年の文化住宅である。新築ではなく既存の建物を生かすことで、住宅再生、地域再生に努めた。プロジェクトが開始した2019年から竣工の2021年までの間、私は研究室長兼プロジェクトマネージャーとして、献身した。なお、本プロジェクトは国土交通省から評価され、「令和元年度 人生100年時代を支える住まい環境整備モデル事業」に選定されている。
学生の活動としては、代表である私含め数名の学生が企画・設計段階から参加。工事からは研究室の全学生が既存住宅の解体、基礎工事、内装工事に参加した。現場の職人と共に、指導を頂きつつ9ヶ月に及ぶ工事を経て竣工。大学のプロジェクトとしては珍しい、住宅のフルリノベーションを企画段階から竣工まで学生主体で行うという大規模なプロジェクトとなった。
解体工事では、構造に関わる部分以外のほぼ全ての部分の解体に、大工の方の指導のもと行った。解体する中で、教科書でしか見ることのなかった木造在来工法の躯体を実際に体感しながら解体し、建築工事を遡ることで、実際の建設プロセスを実際の手で学んだ。鉄筋工事、基礎工事を経た後は、構造に関わる工事のため学生の参加は最小限になったが、その間にも、住宅の居住者を募るため、一般の方々を招いた講演会を開催。さらに地域住民及び本学生を招き、躯体の身になった住宅の中で行う耐震改修セミナーを開催し、プロジェクトの広報活動を行った。住宅完成前からプロジェクトを地域に開放することで、地域住民に関心を持ってもらい、地域拠点となるという竣工後の目標に向かって活動を行った。
躯体工事が完成すると、大工の方の協力なしに学生が内装工事を受け持った。具体的には、石膏ボードへの塗装(パテによる下処理から全ての工程)、柱や扉、家具などの木造塗装、什器作成などである。この様に、実施設計の企画・設計を行うだけでなく、実際の工事も可能な限り学生が主体となって行った本プロジェクトは、学生の大いなる学びに寄与するだけでなく、学生活動が地域に対する直接的な貢献となり、大学と民間企業がタッグを組んで行うメリットを最大限に生かす結果となった。
本プロジェクトにて私は、本プロジェクトでの研究室学生の活動に加え、教授や建築士らとのプランの検討、模型制作や、他学年の建築学科の生徒へのプレゼンテーション、長期にわたる工事への積極的な参加、施工管理者との連携を行いながらの学生側のスケジュールの管理、内装工事においては竣工日から逆算したスケジュールの中での、学生作業の指揮を行うなど多岐にわたり尽力した。無事竣工した後も、建築管理者と共に、コモンフルール地域拠点となるように協議し、コロナ禍という困難な状況にありながら、地域住民を交えた1のイベントを成功させた。そして、卒業に伴って私が下級生に学生リーダーを受け継いだ現在もなお本プロジェクトと研究室の関係性は継続しており、現在は再生を果たしたコモンフルールが地域拠点となるべく、活動は続いている。
なお、本プロジェクト及びコモンフルールは、「朝日新聞」「読売新聞」「高齢者住宅新聞」「大阪日日新聞」「全国賃貸新聞」など数多くのメディアから取材を受け、記事が掲載された。
【講評】
高度経済成長期に建てられた大阪の文化住宅(木造アパート)の再生プロジェクトである。老朽化し、使われなくなった建物に、「高齢単身者と若い外国人介護士がともに暮らす女性専用シェアハウス」というユニークなプログラムが埋め込まれた。プライベートな個室から地域に開かれたテラスまでの段階的な空間構成、斜めに組んだ格子耐力壁の採用など、建築計画や建築構法の工夫も随所に施されている。オーナー、不動産会社、設計者、施工会社、大学研究室など多くのプレーヤーの協働によるプロジェクトだが、そこに参加した学生の役割と熱量が伝わるプレゼンテーションだった。企画、設計、施工、広報、運営まで、一連のプロセスに能動的に関わることで得られた学びは大きなものとなっただろう。最終的な成果は修士論文「高齢期における他世代と共に住まう居住形態の意義と有効性に関する研究」としてまとめられたとのことで、そこで得られた知見も知りたかった。(森田芳朗/東京工芸大学工学部教授)
今回は残念ながら応募作品数が12と少数にとどまった。ここ10数年の間に様々な設計例も発表され、現実の団地や住宅地では依然として課題が山積しているものの、学生の設計演習においては新規性のある課題設定が難しくなっているとも考えられる。その中にあって、今回受賞された3作品は、まさにその課題設定に新規性があり、それに対してよく練られた提案で応えている点が共通しており、その点において他よりも優れていた。
現在の住民の高齢化に対応して、第二の人生を豊かにするように住宅地をいわば集落化しようというテーマ設定、ごみについて考える展示プログラムを団地の空間構成に合わせて多くの人に体験できるものにしようというテーマ設定、実際に存在する文化住宅を高齢女性と看護に従事する外国人女性との交流を育むシェアハウスという場にするというテーマ設定。このどれもが現代的であり、且つ新しさを感じさせるものであった。
やはり若い人の中から時代の感覚を表現する新しく意義深いテーマ設定がでてくる。応募作の数は少なかったものの、学生設計を対象とする本顕彰事業の面白さを改めて感じられる内容だった。応募された学生の皆様に心より感謝申し上げたい。