2024.6.17
(審査講評)
この提案は、当時の建設省が推進した工業化工法パイロットプロジェクトの一つであり、大手企業が計画・生産・供給までの技術開発を競い合った集合住宅である「芦屋浜シーサイドタウン(1979年完成)」の再生提案である。芦屋浜シーサイドタウンは、5層ごとのメガストラクチャー(大架構システム)とプレハブの住戸構成、住戸群・住棟群・街区への段階構成といった設計思想を持っていた。
提案者は、当時の生産供給手法や設計思想をくみ取りつつ、現代の社会情勢やニーズ、地域課題を反映させた空間構成の再編に挑戦したことが評価された。また、エポックメイキングな集合住宅の再生に意欲的に取り組み、生活や仕事の風景、街の風景を再構成しようとした意欲も高く評価された。
特に、縦横に連続するプレハブの居室空間をメガストラクチャーから切り離し、構造から解放されたものとして扱うことによって、オフィスやインキュベーション施設などの新しい空間構成を生み出そうとすることが特徴的である。また、それらの空間は、当時では考えにくかった街との連続性や展開を前提とする多様なライフスタイルやワークスタイルにつながる提案に成功している。
鈴木 雅之(千葉大学大学院国際学術研究院 教授)