AWARD
卒業設計賞

2018.5

第15回 集合住宅再生・団地再生・地域再生学生設計賞 入選作

5月に審査会が行われました。
入選された方の作品をご覧いただけます。

【選考委員】 内田 祥哉(東京大学 名誉教授)審査委員長
      松村 秀一(東京大学大学院 特任教授)
      鈴木 雅之(千葉大学コミュニティ再生・ケアセンター 准教授/ちば地域再生リサーチ)
      田島 則行(千葉工業大学工学部建築都市環境学科 助教/テレデザイン)
      宮部 浩幸(近畿大学建築学部建築学科 准教授/SPEAC)
      森田 芳朗(東京工芸大学工学部建築学科 准教授)

///// 概評 内田 祥哉 /////

昨年の概評では、内容のレベルが、高かったことを強調したが、本年は昨年以上に密度の高い応募作品が集まったようだ。選考評にも指摘されているが、本年の作品には、具体的な調査をもとにしたものが目立ち、学生の作品ならではの、新しい視点からの、提案が地域に根ざして具体化されて来たことを、高く評価したい。
内田賞は、九州の宗像市で、高齢化を抱える日の里ニュータウンと、やはり高齢化によって維持できなくなった隣接する農地の集落をかみ合わせようと云う再生で、互いに歯を欠いた歯車をかみ合わせていこうとする様子が、思わず応援したくなるような提案であった。
それとは反対に、都心の中にテーマを選んだ、学生賞に選ばれた作品も、やはり、近隣を含めた調査によって、相互の日常生活の欠けている部分を補い合う提案であった。
今回は、調査をもとにした学生ならではの新鮮味のある提案が得られたことを高く評価したい。
以上、団地再生の意味が、学生の日常的研究テーマとして浸透してきた事をものがたっており、今後はさらに、行政や企業からはえられない自由で、ユニークな発想が期待できそうである。

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 内田賞】

清水雄太 河村悠希  福本七海  九州大学大学院
「農を巡らす空き間~旧集落とつながる郊外での暮らし方~」

【講評】
 この計画は、かつての集落を宅地開発したものの、空き区画のまま残っていたり、空き家が増えた住宅地を再生させようとするものである。その再生にあたっては“農”をテーマとして、空き地と空き家に、農に関わる人・もの・食を配置していくことで、住宅地エリアと周辺集落を連携させた郊外住宅地の新しい暮らしとコミュニケーションをつくりだそうとしている。
 日本全国にある宅地開発された郊外の問題を対象とした提案であること、また、集落がもっていた“農”という機能に着目し、それを住宅地エリアにも浸透させる提案であることが高く評価された。また、ハードの再生に留まらず、農とその関連機能でつなぐ新しいコミュニケーションや、居住者のまちへの“関わりしろ”をつくりだそうとする着想もよかったいものであった。
 宅地開発は自然や緑を壊しながら進められてきたものであったが、人口減少が進む日本の中で、遠い将来には郊外の宅地を「自然や緑に戻す」動きになることは容易に想定される。最後の1軒をなくすまでの遠い道のりの中で、この計画にあるような仕組みとプロセスが考えられてよいだろう。(鈴木雅之)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞】

樋渡 聖    近畿大学
「ふるまいを纏うマンション-都市におけるオープンスペースの再考-」

【講評】
 マンションが密集する地区での計画である。一般的にマンションの採光面、アクセス面は限られているが、隣地との隙間にあたる部分等、従来十分に利用されてこなかった面を、床や壁、垂直動線の追加等によって中間領域的に利用できる空間に変え、各住戸の暮らしの場としての豊かさだけでなく、マンションや地区の住み手相互の新たな関係性をももたらそうとした意欲的な提案である。マンションの密集地区は、これまでこうした学生の設計においても充実した取組みがなかなか見られなかった対象であり、それを対象として選び、増築的な操作を加えることで、その生活空間としての可能性を引き出そうとしたテーマ設定と意欲は高く評価できるものである。丹念な地区の調査とその分析に基づいて計画されている点も好感が持てる。この操作によって光、熱、通風等の環境面での質がどのように向上できるか、またそれぞれの権利関係の整理をどう進めるか等について更に検討を加えれば、現実社会に大きなインパクトを与え得る提案に繋がるであろう。
(松村秀一)

吉田 聖   東京大学
「さりげない日常を共に生きる」

【講評】
 足立区にある古くから都営アパートを中心とした住宅街を対象とした案である。建て替えの進む都営アパート、再編される周辺環境を把握した上で、そこに住む高齢者や居住者のニーズを分析し、このエリアに暮らすコミュニティのあり方を検証している。単に住む場所のデザインではなく、住む場と場とを結びつけるようなコミュニティを繋ぐ場を創り出し、喫茶室は学童施設、あるいは療育室や食堂、そして菜園やデイサービスなど、日々の暮らしを支える施設を計画している。

その土地の歴史的な文脈や土地の変遷をたどりつつも、周辺環境の現況を考えて道の付け替えを行い、ささやかな高低差を丁寧に読み解きつつ、小道に沿って緑あふれるコミュニティ施設を散在させている。そういった丁寧な設計プロセスがキメの細かいプレゼンテーションに現れており、デッキや広場、東屋や道端のベンチなど、親しみやすいスケールの建物とそれを囲う外構空間とがあわさって、「さりげない日常」のための場づくりに成功していると言えよう。(田島 則行)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 国際賞】

両川 厚輝   東京大学大学院
「チャマンガで小屋を建てる」

【講評】
 2016年4月のエクアドル地震(マグニチュード7.8)で被災した小さな漁村チャマンガの復興をテーマにした案。政府による復興案は漁師小屋や商店のあった海ぎわはクリアランスされ公園となり、復興住宅は内陸に建てられるというものであった。これをこの提案者は当該地での生活と乖離したもので有るととらえた。彼は現地で2ヶ月ほど暮らしながら詳細な調査を行い、現地の人たちの生業が継続していける形を模索し、海際のエリアと内陸の復興住宅を含む新たな生活圏が提案した。もともと現地にあった近所が助け合うセルフビルドの習慣(MINGA)を生かしながら、建築の専門的な知恵を加えて、海ぎわに漁業や観光に関わる小屋を作る計画となっている。

現地にある生活を形作る力を信頼し、復興を進めて行く案は、この村のアイデンティティの継承・形成につながるもので、村を内外の人にとって魅力ある形で持続させる方策として評価できる。また、日本の被災地の復興計画のあり方へのメッセージと捉えても意義深いものである。
(宮部 浩幸)

【集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 奨励賞】

GRM5 Renovation Project 実行委員会
関西学院大学 ・ 大阪大学 ・ 武庫川女子大学
「GRM5 Renovation Project」

【講評】
12戸からなる木賃アパートを6戸の住まいに再編するリノベーションプロジェクトである。3大学の学生が練った計15案のなかから、6つが実施に向けて動いている。土間などの中間領域を取り込むことで住まいを開こうとするアプローチ、既存の建物のありようを家族の将来に緩やかにつなげていこうとする姿勢など、学生らしい瑞々しさにあふれている。どの案もよく考えてつくり込まれており、何より暮らしが楽しそうである。その実現に向けては、不動産管理、法適合、構造、予算など各面からのブラッシュアップも図られており、このプロジェクトが目的に掲げる「教室だけでは学ぶことのできない大きな経験を得ること」の教育的効果は高かったものと思われる。学生を讃えるこの賞としては、案の実施に向けて学生がどう主体的に関わっていったか、3大学の6つの計画相互の連携はどう図られていったかなどについても、もっとアピールして欲しかった。(森田 芳朗)