AWARD
卒業設計賞

2020

第17回 集合住宅再生・集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 審査結果

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 内田賞

鈴木 菜都美  工学院大学大学院
「余剰から培うまち-郊外住宅地を編みなおす-」

【講評】
 30年の時を経て、人口減少、少子高齢化による空き区画の増加、地域コミュニティの希薄化など多くの問題を抱え始めている典型的な地方都市(浜松市)の郊外住宅地。その「編みなおし」の提案である。基本的な考え方は「公」と「私」で構成されている住宅団地の中に「共」の空間を挿入するというもの。空き区画、空き駐車場は、農地や菜園、広場、ガーデンといった住民の共有庭に、空き部屋のある家はリノベーションし、シェアキッチン、図書館など、住民共有の部屋に変える。敷地境界にフットパスを設け、共有空間へのアクセス路とともに住民同士のコミュニケーションを誘発する道とする。地形と既存高齢者施設等の分析、500m生活圏の住民の歩き方、空き部屋の共用の仕方、農の導入等が、空間計画上も、また地元の銀行やJAを巻き込む運営計画上も、丁寧に計画されており、これからの暮らしの豊かさが具体的に感じられる提案に仕上げられた点は、大変高く評価できる。
松村 秀一 (東京大学大学院工学系研究科特任教授)

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞

藤沢 裕太    東京電機大学大学院
加藤 未来    東京電機大学大学院
川田 啓介    東京電機大学大学院
「興野町住宅団地住戸改修プロポーザル」

【講評】
興野町住宅は、1959年に建てられた東京都住宅供給公社の住宅団地である。その再生プロジェクトの一部に、近隣大学の学生の設計案による住戸改修計画が組み込まれた。集まった51案から選ばれたのは、①25㎡の小さな住戸にゆるやかな奥行きを持たせた「湾曲壁の隠れ家」、②建具の開け閉めで帯状の空間が様々につながる「伸びちぢみする家」、③隣り合う土間付きの2戸を行き来しながら生活を開く「趣味人たちの空間」の3つである。これらのアイデアは、発案者を中心とする学生チームの手によって、さらに実施設計のかたちにまで落とし込まれている。まとめに向けては教員等によるサポートも少なくなかっただろうが、それぞれの案のユニークなアイデアとデザインのレベル、チームの協働作業による完成度の高さから、「集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞」に値するものとして評価された。学生入居を想定しているとのことで、実現が楽しみである。
森田 芳朗 (東京工芸大学工学部建築学科建築構法研究室教授)

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞

河野 麻由    椙山女学園大学
「re ; re 〜窯業における廃材のマテリアル化と木造倉庫の再生〜」

【講評】
この案は岐阜県土岐市で地域を支えてきた窯業関連の建物や材料、加工品を丁寧に見つめ直し、それらを建築として再構成することで、新たな魅力を作り出そうというプロジェクト。その地で作られたものを再利用したマテリアルを用いて木造倉庫を改修することにより、地域の特徴を色濃くまとう建築を提案した点を評価した。
この空間に観光客向け、地元の人向け、職人、窯業関係者の使う機能を複合することで、衰退傾向にあるこの地の窯業の新しい情報発信の場を構成している。ひとの往来が意識される提案だけに、平面計画についての判断の根拠となる配置図やダイアグラムもあればなお良かった。さらに欲を言えば散りばめられたマテリアルの集合体として、建築を見通せるような仕掛けを表現してほしかったが、自ら材料を見つけ、加工し、その地を表象するマテリアルを作る提案は、地域に根ざす建築として、このまちにあってほしいと思わせる説得力があった。
宮部 浩幸(近畿大学建築学部 建築・都市再生デザイン研究室准教授)

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 奨励賞

尾﨑 雄太    東京大学
「Old New Town まちのまびきかた」

【講評】
この計画は、宅地造成され開発された戸建て団地を、シナリオアプローチの手法により、トラストという事業手法と組み合わせて将来像を模索したものである。
全国的に、かつて造成された住宅地は、空き区画のまま残っていたり、空き家が増えている。人口減少が進み、条件的に不利な郊外の住宅地から見捨てられていくようになると予想されている。しかしながら、その終末までのプロセスはいまだ見いだせていない。
 そのような状況の中で、この提案は、2067年までの長期の時間軸を設定し、住宅地のシナリオを描こうという意欲があった。その始まりはトラストが組織化され、そこが中心となって、住宅地の価値を守るようなプロジェクトや事業が進められる。また、それに合わせ住環境改善の設計がされている。
これらの提案によってこの住宅地の居住者のQOLがどのように向上されるかが見えにくかったが、ソフトとハードの両面から提案されていることが好印象であった。
鈴木 雅之(千葉大学大学院国際学術研究院准教授)

集合住宅再生・団地再生・地域再生学生賞 奨励賞

中野 沙紀    工学院大学大学院
木元 勇武    工学院大学大学院
星 佳佑     工学院大学大学院
草野 壱成    工学院大学
「郊外住宅地でのDIYによる空地リノベーションの実践 〜グリーンインフラ技術を活用した地域再生〜」

【講評】
郊外住宅地における空地を、学生主体で広場の土台をつくり、専門家のアドバイスを受けながら地域の住民らを徐々に巻き込み、3年にわたって空地を住民らの広場に生まれ変わらせるというプロジェクトである。週に2回ずつ、3年間で192日も現場に訪れて、地元住民や地域の小学校や保育園、そして市の担当者をも巻き込みながら、ワークショップやマーケット、朝市や菜園プロジェクトを行っていくことで、地域の人たちとの人間関係を繋げながら、「地域を育てる広場」のコンセプトをもとに活動を行ってきた。
結果として景観の改善だけでなく、様々な活動を繰り広げる中で、「場」が本来持つべき「人の交流を繋げる役割」を担うまでになった。つまり、空地の単なる改良ではなく、空地を真の意味で地域住民の「広場」として機能させていることになり、これを地域再生の実践として成し遂げている点において、高い評価ができると考える。
田島 則行 (千葉工業大学創造工学部建築学科助教)

総評 (審査委員長:松村秀一)

 今年は、昨年よりも多くの応募作品が集まり、またその内容には感心させられるものや興味深いものが少なくなく、審査会も楽しいものになった。
 既存の建築ストックの有効な活用や適切な改善によって、私たちの暮らしの環境をより豊かなものにしよう、そして、現在それぞれの地域が抱えている問題の解決に向かっていこうという姿勢は、ほぼすべての応募作品に共通していたが、その着眼点は実に多様で、既にこの分野での実践が積み重ねられ、私たちが想像している以上に、学生の方々がそれらの内容に触れる機会を持っている今日の状況を改めて強く認識させられた。
 例えば、その着眼点は、地域の福祉サービスや小規模な商業活動であり、ちょっとした触れ合いの場づくりであり、地域の記憶を呼び覚ます素材であり、長期にわたる共用空間等の経営であり、旧来のサイズの住戸空間の中での新しい暮らし方であり、自然や農的要素の新たな導入等であった。中でも、複数の着眼点をうまく結び付け、全体としての居住環境の豊かさに結び付けることに成功している内田賞受賞作品「余剰から培うまち-郊外住宅地を編みなおす-」は、そうした今年の傾向を代表するものでもあった。
 来年以降の本賞の事業についても期待が膨らむ本年の内容であった。応募された学生の皆様に心より感謝申し上げたい。